インタビュー #02 ジュエリーデザイナー 平 結さん<心を動かすものづくり>
前回、暮らしや生き方のヒントを伺った平 結(たいら ゆい)さんへのインタビュー第二弾。
気持ちが溢れ出しそうになるような “美しいもの”を、ジュエリーで表現し続ける Ryui(リュイ)。第二弾では心がそっと揺さぶられるような繊細で美しい Ryui のジュエリーの世界、ものづくりへの想いについてお伺いしました。
Yui Taira /平 結:和歌山県生まれ。武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科卒業。パッケージデザイナーとして活 躍していた中、いつまでも大切にされるものを作りたいという想いから、2008 年より、夫である日向 龍とジュエリーブランド【Ryui / リュイ】をスタート。
はじまりは夫がくれた手作りの指輪から
ーご夫婦で立ち上げられた Ryui(リュイ)は来年で 15 年だそうですね。 お二人でジュエリーを制作していこうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。
私は美大時代にパッケージデザインを専攻していて、本を手製本で作ったり、紙を組み立てモデルを作成したりしていました。 その後卒業してパッケージデザイナーとして働き始めたのですが、実際の仕事はパソコンの画面上でのデザインが殆どだったので、手でものをつくることが好きな私にとってはどこかしっくりこない感覚を持っていました。
そんな頃当時付き合っていた夫が、針金をバーナーと金槌で丸めて叩いて作った指輪をプレゼントしてくれたことがあったんです。その嬉しさと共に、元々ファッションも好きだった私にとって、自分でつくったものを身につけることができ、長く楽しめるジュエリー作りにすごく魅力を感じ たんですよね。それからすぐ、仕事と並行して休日は彫金教室に通い始めました。
もともと 2 人で一緒にものづくりをして、それがいつか仕事になるといいねという話はよくしていたので、自然と私が教室で学んだことを共有しながら一緒にジュエリーをつくるようになっていきました。
なので、当初はジュエリーブランドを作ろうと思ってスタートした訳ではなく、二人でものづくりをして、つくったものを自分で身につけて楽しみたいということが始まりだったんです。
ー自分で楽しめるものを自分たちの手で作りはじめたことが原点だったんですね。 販売を始めたのはいつ頃だったのですか?
最初の頃はただつくることが楽しくて、各々が仕事をしながら時間を見つけては、少しずつジュエリーを作るという日々でした。そうして2 年ほど経ち作品数が増えた頃、ご縁あって Ryui の原点である Flower というシリーズを目に留 めてくださったデザイナーさんのお店にジュエリ ーを置いて頂けることになり、そこで初めて Ryui という名前を付けて展開を始めていったんです。
ーその方がミナペルホネンの皆川さんだったんですよね。出会いと運命を感じますね。
はい。私たちの作品を世に出すという機会を与えて下さり、また 15 年たった今もたくさんのお仕事をご一緒させて頂いています。ものづくりの姿勢など教わることも多く、皆川さんには本当に感謝しています。
ーそこから 15 年。Ryui として発信していくことになる訳ですが、具体的にはどのような展開をしていったのでしょうか。
日々感じたことや発見したことを大切にし、それを毎年欠かさず「新たなコレクションとして発表する」ということを続けています。お話しした通り私たちは、ジュエリーは自分達の表現方法のひとつだと考えていて。私たちが今何を表現したいかというところを確立させて初めて、ジュエリーという形あるものに落とし込んでいくという、形や宝石の価値からではないアプローチを継続しています。
またコレクションは純粋に表現したいことに挑戦する機会を自分達に設ける意味もあります。妥協のない自己表現の追求はデザイナーの力にもなりますし、1 番の楽しみでもあります。 その楽しみは Ryui の核となるもので、それを発信し続けることが、結果ブランドの世界観を強くしていくんじゃないかなと。これからも大切に継続していきたいと思っています。
日常の当たり前に潜む“心が揺さぶられるすべて”を表現する
ーRyui のコレクションにはいつも惹き込まれます。作品のコンセプトやテーマはどのようにして生まれるのですか?
自然や生き物が好きなので、虫だったり微生物だったり植物だったり……それらの観察からアイデアが生まれているシリーズも多いんですけれ ど、それだけではなくて。去年もある出来事から、大きな生命の流れについてよく考えるようになったんです。そこで感じた事が「個と世界の繋 がり」を波のうねりとして表現した 2022 年のコレクション“Wave”に繋がっています。
そうした当たり前として過ごしている日常の中に、ときどき強く興味をそそられる、または大きく疑問が湧くポイントみたいなのが生まれることがあるんですよ 。
そんなふうに、自然物をモチーフに限定している訳ではなく、命のことや、感情、感覚、情景や事象などからインスピレーションを受け、それが テーマになることもある。この世界の本当の美しさやよろこびなど、哲学的な内容も含めて作品づくりに落とし込んでいます。
ー確かに Ryui の作品は自然はもちろんテーマの 1 つではあるけれど、それだけで完結するものではないですよね。
そうですね。全部同じだなって思うので。普通に生きているだけでも心を動かされる美しいことがたくさんあるんですよね。それが花や月、石のような具体的なモチーフである時もあれば、幻想や生命の流れ、学問だったりする時もある。なんていうか、アイデアの元になっているのは ” 心が揺さぶられるすべて” なんです。
川岸水辺にある石の丸みやキラキラした存在が好き、自然が生み出したの形が集まって光っている情景は美しい、と話してくれた平さん。ご自宅に飾られたた集めている丸い川 辺の石。
森に面したご自宅のデッキに現れたという、美しい玉虫。
ーこれまでの作品のテーマを少しご紹介いただけますか
例えば自分とその他を分けるものってなんだろうって考えて生まれだ“Coat“というシリーズは、「境目」がテーマになっているんです。全てのものが素粒子でできていると考えたら、ものの境目というのは実に曖昧なんじゃないかと。そういう事象の興味から生まれたもの なんですよね。「粘菌」をモチーフにした”I know” というシリーズも、近くの森を歩いている時にこれなんだろう?と見つけたものから。調べてみ るとすごく不思議な生態を持った生き物ということがわかり、興味深くてたまらなくなりました。
「Pebble」は水辺にある石が濡れてキラキラ光っている様子をイメージしています。私は河原にあるなんとも言え ない丸い石ころが好きで 集めているんですけれど、Pebble リングも自然の石のように、なんとも言えない丸みを一個一個微妙に変えていたりします。
Ryui の作品のテーマは、事象や自然や生命など様々。物と物の自分とその他を分ける「境目」に注目したものや、森で見つけた「粘菌」の生態など、ふと気になって何だろう?と思ったこ とから形 になっていったジュエリーたちは、視覚と感覚の世界が表現されていてとても繊細で美しい。
見ようと思えば世界は美しいものに溢れている
ー平さんの考える「美しい」は深く広い視点からきていますね。目に見えるものを超えていく洞察力というか、心を震わす感度の高さというか。
Ryui は「気持ちが溢れ出しそうになるような“美しいもの”をジュエリーに込めて」という言葉をコンセプトにしています。今生きている世界で当たり前に思っていることや普通に見えるものも、視点を変え、興味を持ち、見ようと思えば美しいもので溢れているということを Ryui のジュエ リーを通して表現していけたらと思っています。
ー平さんにとってジュエリーをつけることの意味とか価値ってどういうものなのでしょうか。
最近よく考えるんですけれど、人が生きている意味って、「嬉しい」とか「楽しい」とかそういう感情を追求していくことじゃないかと思うんです。 例えばどんな厳しい状況でも幸せを感じながら生きている人もいれば、どんなにものに溢れ不自由しない状況でも辛い思いで毎日を送って いる人もいる。大切なことは、毎日幸せな気持ちで生きているかですよね。
価値はとてもシンプルです。ジュエリーをつけた時に、最終的には身につけてくれた人の、大きな喜びになってくれることが 1 番。Ryui のジュエ リーをつけていれば嬉しくなる、気持ちが上がるって言ってもらえることが何より嬉しいですね。さらに私たちがそのジュエリーに込めた嬉しさや、 楽しさを少しでも共感していただけるようであれば、より幸せです。そんなつける人の気持ちが豊かになる存在であってくれるといいなと願って います。
ー今の時代、自分が本当にほしいと思うものを選んで大事に使っていきたい気持ちみたいなものが高まっていると思うんです。Ryui のジュエリ ーは 一過性で消費されるものではなく、自分の一部として⻑く大切に使いたいと思う魅力がありますね
最近そういう方が増えましたよね。 15 年続けてきた中で時代やトレンドの流れはもちろん感じてはいるんですけども、いつの時代でも流行 りに流されることなく、永く大事にしてもらえる存在になれるようにとひとつひとつ大切に作ってきました。今コロナ禍という状況になって人の考 えも二極化したような気がするんですけれど、自分が大事にできるものを探されている方が多くなっ たなとは実感します。有難いことに私た ちの作品を、ご自身への大切なひとつとして選んでくださる方も増えたのかなと感じますし、そういう気持ちに応えられるものであったら嬉しい なと常々思います。
核となる部分は変えずにつづけること
ーエソラニは“つづきをつくること”を 1 つのテーマにしています。Ryui のものづくりへの向き合い方を変えることなく続けているというスタイルは 簡単なようでとても難しいことだと思うのですがいかがですか
そうですね。表現方法は新たなことにどんどん挑戦し変化していっていいと思っているんですが、一番大切な核となる部分は変えずに続けていかないとならないと思っています。そこを変えてしまうと Ryui じゃなくなってしまうので。
簡単に作れるようなデザインに絞ったり、量産できる外注先を提携したりなど、ビジネスとして効率の良い手段は多々あると思うんですが、 目先の利益だけに追われた行動は、その時は良くても最終的に逆の結果を産むと思っています。芯がぶれてしまうと、長期的にブランドが 長く続いていくことには繋がらないと思うので。
私たちも楽しみをしっかり持って表現し続けたいし、ジュエリーは特に宝物のようにつけてくださる方もいることを考えると、ひとつひとつの完成 度も落としたくない。 だから自分達の目が届く範囲で、納得がいくものづくりを続けていきたいですね。
ー最後になりますが、Ryui のこれから、未来への想いをお聞かせください
あっという間の 15 年でしたけれど、こう話すとこれからも変わらず続けていくことが 1 つの目標かもしれないです。時代は刻々と変化していきますし、お客さまの趣向も流行りと共に変わっていく中で、自分達がいかに核を変えずに、挑戦していけるかというのは変わることのない課題です。
私たちのものづくりに賛同し並走してくれるスタッフも増え、夫婦二人でスタートした Ryui は今、一つの小さなチームになりました。このように 自分達を取り巻く環境も変化する中で、2人でやってきたことを徹底する のは難しいと感じる事もありますけど、逆に2人では今までやりた くても出来なかったことにチャレンジしていけることは、15 年前と比べると想像もしていなかった大きな変化で、強く実感出来る幸せな前進です。
そんな風にポジティブに環境を変化させる一方、Ryui が大切にし続けてきた核の部分は変えることなく、うれしい思いや楽しい思いを持ち表現し続けていくことを、これからもずっと大切にしていきたいですね。
貴重なお話をありがとうございました。エソラニはRyuiの1ファンとしてこれからも素敵な作品や展開を楽しみにしています。
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Ryui (リュイ)
web site : https://ryui.jp
shop : Ryui西荻窪店 東京都杉並区西荻窪3-4-3
instagram : ryui_jewelry