esoraniのなかのこと #02 ものづくりコラム
私という主人公が心に描く“絵空ごとストーリー” ノスタルジックな世界とシンクロするエソラニの1stデザイン
エソラニのなかのことを発信するものづくりインタビューコラム。第二弾は魅力あふれるエソラニのパッケージデザインを担当した飯村さん柳田さんから、パッケージのあれこれ、設計への想いについてお話しいただきます。
(左)Eriko Iimura/飯村江梨子:数多くのセルフコスメパッケージデザインを手掛けてきたヒットメーカー。エソラニでは総合デザインディレクションと呼び水バームを担当。一児の母。(右)Mayu Yanagida/柳田真優:主にメイクなどのパッケージデザインを手掛ける。エソラニではロゴデザインと思いでオイルを担当。最近は暖かいハーブティーと共にゆったりとくつろぐひとときが好き。
まるで本の装丁や挿絵を描くように
ーデザインの方向性や全体像はどう描いていったのでしょうか
飯村:ディレクションをしている山下さんから企画をもらった時には(すでに彼女の頭の中に)確固たるブランドの世界観が出来上がっていたので、パッケージデザインというよりは、本の装丁を作るような感覚でアイデアを出していったんです。この言葉に挿絵を入れるならどうしたらいいかなとか、もらった色や言葉の奥に「私」という等身大の主人公が存在しているような気がしたので。このブランドをデザインするというのは、その「私」を取り巻くストーリーを描くことだと思ったんですよね。いつものパッケージデザインの進め方とは少し違う感覚だったかもしれないですね。
呼び水に込められた2つの意味を1つに重ねたストーリー
ー飯村さんが担当した呼び水バームのデザインもまるで物語のようですね
飯村:コンセプトの中に「自分と向き合う」というテーマがあったのでそれをesoraniという言葉と重ね、少女が空を見上げているようなイメージからアイデアを広げていったんです。また「呼び水バーム」自体が、自分の感情を呼び起こすような情緒性と、水分を肌に呼び込むという機能性の2つの意味を持っていたので、それを1つに結びつけるようなデザインができたらいいなと思って……景色や色をひたすら描きながら具体的なストーリーを視覚化していったような感じですね。
最終的には「水」というものを中心に人と自然が重なり合っていくさまを物語のように表現したいと思い、最後に伝えたいメッセージがきちんと残るような“起承転結”を意識した展開を描きました。表に描かれた「水たまりに呼ばれた女の子」の絵から始まって、パッケージ内側の「少女が覗いた景色=自然の中に水が循環する世界」へとつながっていく。自然を流れやってきたコップ1杯の水がまた体内の水分として巡っていく過程を感じながら、最後は使う人自身が実際の商品で「肌に水分を取り込むこと」でそれを感覚的に体感することが一連のストーリーになるような設計をしています。
子供の頃の感覚に戻ることは自分の本質に戻ること
ーパッケージには水彩画や折り紙のような世界が広がっていますね
飯村:伝え方としてはどこか童心に帰ったような感覚を持たせたいと思っていました。私は小学生が描いた絵を眺めたりすることが好きなんですけれど、その年頃に描いたものって人間が無垢な感情で吐き出した美しさに溢れているんですよね。テクニックに頼ることなく作り込んでもいない。そんな感覚を表現できたらと思い、水や雲や自然の表情を、切り絵のようなわかりやすいアート感と水彩画で描いています。
大人になるにつれてどこか他人行儀に生きている中で、素の自分に戻る時は子供の心である瞬間。見境なく泣いたり怒っちゃったりするような純粋な自分と向き合うことは、素直にその時々で形を変える水と通ずるものがあって。この商品に触れる時間が、本質的な自分に戻れる時間であってほしいと思っています。
日常の無意識の中にあるにっぽんのマインドを表現
ーエソラニのテーマの1つである「つづきをつくること」についてはどうですか
飯村:にっぽんのマインドというのは、日常の中に潜んでいると思うんです。例えば牛乳パックをたたむ時の、ちょっとした心地のよい感情であったりとか、アイロンをかけた洗濯物の角をきちんと合わせて折り重ねた時の達成感とか……「始末のけじめ」をつけるという感覚を私は日本らしいと感じるんです。
呼び水バームの1枚の紙から「箱」になっていく形状や、金魚を上から鑑賞する視点のように水たまりを覗き込む少女を上から見た表現などは、そんな日本の心地よさを視覚的に表現した部分です。スキンケアのパッケージにはあまり使われない「包む」「開く」といった風呂敷のような構造にもしたことも、日本の丁寧にものを扱う文化を感じてほしいという想いからきています。
資材を選択する際には環境配慮型の素材から積極的に検討するよう心がけていくなどそういったことも含めて、文化や感性や環境など様々な視点で「つづきをつくること」を意識するということが大切だと思っています。
思いでの象徴をつくること
ー思いでオイルのデザインを担当した柳田さんに伺います。「思いで」というのは独特な世界だと思いますが、このデザインはどう生まれたのでしょうか
柳田:思い出というのは記憶の中にある景色や空気感を切り取ったものですよね。この思いでオイルは、景色や自然と重なった記憶の世界そのものをまず2層のオイルの色やバランスで表現しているんです。
大切な思い出の中には「その日着ていた服」が印象的に残っていることも多いと思います。パッケージではそんな「服」を思い出の象徴としてフレームに見立て、2層のグラデーションをそこから覗き込めるような構造にしました。額縁のように切り取られた一部から思い出の世界を眺めることで、見る人それぞれの記憶に繋がっていくような世界をデザインしています。
開けてからしまうまで。すべてが揺れ動く記憶の物語
-シンプルな設計の中に「仕掛け」のようなものが点在しているんですね
柳田:商品を「手に取って」から「しまう」まで一連の動作を楽しんでもらえるように設計しています。まずパッケージを開ける時に「スライドする」ことで、フレームの向こう側に描かれた2層のオイルを表した水彩の絵がアニメーションのように変化します。同じ思い出でもそれを思い出す時の気分や感情によって少しづつ違って感じられることを、こういった表情が変化する仕掛けのところで表現しています。また使った後も箱に戻したくなるような言葉やデザインを入れることで、外装自体がスキンケアの行為の一つになるよう工夫しました。揺らしたり、見る角度によって印象が変わるよう、容器の塗装などにもこだわっているので、ゆらゆらと揺れ動く「思いでの世界」をオイルの動きでも感じてもらえたらと思っています。
使う人の想像の余白を残すデザイン
柳田:日本の水墨画とか枯山水のように最小限の要素で形作ってあとは見る人の空想に任せるような表現ができたらいいなと思い「何かに見立てる」とか「想像してもらう」という感覚を大切にデザインしました。主役はあくまでもオイルそのもの。他はシンプルに要素を削ぎ落としながら表現していくことで、使う人が自分のストーリーを描いていけるような余白を残しています。
ーロゴデザインはどのようにして生まれたのでしょうか
柳田:ロゴに関してはプロダクトデザインを進めながらチームで様々な案を出し合って決めていきました。初期のアイデアの中には、美術館みたいなグラフィック、永遠とか循環を描いたもの、サスティナブルや日本をより象徴的に変換したものなどもそうですし、ペンギンが空を飛ぶ空想の世界や、エソラニというタイポグラフィの振り幅など……それぞれの角度で表現されたesoraniがあったんですよ。
飯村:数人でアイデアを出しながら進めていったんですけど、それぞれのアウトプットは違っても、みんな根底のイメージはブレていなくて、すべて同じ方向を向いていました。そういった背景もあって、その中で「より洗練されている、よりやりたいことを表現できていたものを選ぶ」というシンプルな決め方ができたんです。(最終ロゴをデザインした)柳田さんの案は、自然の中に自分の感情を風のように通す感じというか、景色に同化する感情と空想を空に飛ばす感じがどちらもうまく表現されていました。
ー最終的には女の子と自然が重なったデザインになったんですね
柳田:決定したこのロゴデザインは、ブランドコンセプトである「空」に象徴された日本の季節の空気感や景色と「絵空ごと」という空想を描いた2つの世界をうまく同時に表現できたらいいなと思ってデザインしたものです。なんとなく山だったり雲だったりに見える自然に連想された世界と、女の子が空を見上げ物思いに耽っているような構図で描かれています。商品のデザイン同様、自分がエソラニの主人公として入り込めるような余白を作ることを意識して、できる限り柔らかな線を使ってシンプルに描いています。
飯村:描きすぎても説明的になってしまうし、抜きすぎてもわからないよねというところで、絶妙なラインを目指してブラッシュアップを重ねていってもらいました。最終的には満場一致で「これだね!」というところに落ちて、みんなでハイタッチをしました笑。どんな人でも主人公は「自分かもしれない」と思えるようなロゴは、物語とシンクロするための入り口のような存在になっていると想います。
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