インタビュー #03 <イラストレーター 深川 優さん×エソラニ スペシャル対談(前半)>

深川作品の原点とは?線と面が生み出す、どこか物憂げな女の子の秘密。

 

今回は、エソラニのプロモーションイラストを描いてくださっている深川優さんとエソラニチームとのスペシャル対談!見る人の感覚をフルフルと揺さぶる、深川さんのエモーショナルなイラストの世界について色々お話をお聞きしました(前半/後半に記事が分かれています)

Yu Fukagawa / 深川優:イラストレーター。滋賀育ち神奈川在住。滋賀県立膳所高等学校、武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。人物イラストを中心に広告·書籍·雑誌など様々な媒体で活動中。これまでの個展は2016年『待ちあわせ』、2018年『あいちゃん』、2020年『東京』(@東京・ギャラリールモンド)、2022年『いけず石』(@東京・ギャラリールモンド/京都・haku kyoto)。

 

建築学で培った「人×空間」興味は設計からイラストへ

ー深川さんは滋賀県出身で、武蔵野美術大学への進学をきっかけに上京されたんですよね。学生時代から作品を描かれていたのですか?

実はその頃はあんまりで。美術大学でしたが、私は建築学科。しっかり建築の設計をするゼミを選んでいたし、イラストはそこまで描いたり創作したりはしていなかったんですよね。

ー建築学科!そうなんですね。イラストの世界へと向かう、はじまりは何だったのでしょうか。

はじまりは曖昧なんですけど。みんながパソコンのソフトで図面を作成している中、自分で手書きすることにこだわったり、設計って建物のスケール感をわかってもらうために人も描くのですが、その人物のディテールを細かく描いたりとか。「あ、なんか、設計することより絵を描くことの方に興味を惹かれるな」と気づいて、そっちの道に進もうかなって思いました。 

ーたしかに、深川さんの作品を見ていると、空間の描かれ方や視点に「建築」が生きている気がします。単なる「人」ではなくて「空間にいる人」が感じられるというか。

それはちょっとあるかもしれないですね。

ー建築学科卒業後すぐに、フリーのイラストレーターになられたんですか?

そうですね。建築に進む道ももちろんあったんですけど、大学院に行ったつもりで2年間、絵をしっかり勉強しようかなと思ってずっと一人で描いていました。

ー描いた作品をどこかに発表したり、SNSなどで発信したりは……?

最初はまったくしていなかったんです。雑誌のコンペなどに応募しつつ、ただひたすら描く毎日で。23年はイラストの仕事も特になくて、アルバイトしながらずっと制作をつづけていました。

そんな中、描きためていた絵をグラフィックデザイナーになった同級生のところに持っていって見せてみたら、面白がってくれて。それをきっかけにデザイン事務所に出入りするようになって、デザインの仕事を手伝いながら時々イラストも依頼されたりして、徐々にイラストレーターとしての仕事が増えていきました。

 

深川作品のアイコン、黒髪の女の子

ー深川さんのイラストといえば、黒髪の女性が印象的ですよね。この独特な黒髪のイメージはどこから生まれたのでしょうか?

この絵にたどり着いたのは……そうですね、個展をするようになってからですね。今、活動しはじめて10年くらいになるのですが、最初のうちはグループ展も個展も一切やっていなくて、5年くらい経ったときに初めてギャラリーの方が誘ってくださって。それまではわりとデジタルで描いていたんですけど、展示する絵ならアナログの作品がいいな、どんなのがいいかな、という中で生まれてきました。

ーインスタにUPされているイラストを拝見していても、初期のものは今とはちょっと違う雰囲気ですよね。

そうですね、初期はもっとこまごまとした集合体、みたいな感じだったんですけど。飾ってもらえる、所有したいと思ってもらえる作品を描きたいと思うようになったのが(今のスタイルに変わる)きっかけでした。

はじめはアクリル絵の具で人物を描いたりしていたのですが、個展の23回目あたりから鉛筆の線で描くスタイルになって。そこから黒髪の女の子が生まれたんです。

ー黒い鉛筆ならではのシャープな線が、黒髪の艶を残しながら描く表現につながったんですね。どこかに必ずポイントで赤をさされているのも、すごくオシャレだなぁと。

それが効いてますよね(笑)。

ーところで、なぜ女の子なんですかね。

なんでですかね……。自分の描く線が曲線的でやわらかいタッチなので、女性を描くことが多いですね。

ーたしかに、描かれている女の子の雰囲気にもやわらかさがありますね!

 

深川作品を生み出す、画材のお話

―たとえば、この女の子の髪の毛なども鉛筆で描かれているわけですね。

鉛筆というか、正確には黒色の色鉛筆ですね。きょうは普段使っているものをいろいろ持ってきました。

(なんと!貴重なものをありがとうございます……!)

ファーバーカステル
水彩紙

ファーバーカステル(=1761年にドイツで創業された世界最古の鉛筆メーカー)の油性の色鉛筆を使っています。

水性の色鉛筆だとちょっともろくて、力を入れると欠けちゃうので。あとは通常の鉛筆だと光沢が出てしまい、もっと色が薄くてグレーっぽくなるのですが、これだと漆黒になるというか。

紙は水彩紙です。一般的なものはもっとザラザラしているんですけど、いちばんキメが細かいものを選んでいます。

イラストの描き方

―どこかノスタルジックなくすみカラーに赤が映えて。フラットな色面が美しいですよね。日本画家が平筆でサーッと塗ったような。

口紅やマニキュアの部分は、水彩絵の具で。面の部分は、自作のカラートーン(=スクリーントーンのカラー版)を使っています。半透明のシートを自宅のプリンタで印刷して、デザインカッターで切って貼って。

建築学科だったので、切る作業は好きですね。アクリルで塗る作業よりも自分に合ってるなって。

こういったカラートーンはもともと漫画家さんたちが使っていたものですが、漫画の世界もだんだんデジタルに移行していって、トーンが使われなくなってきて。私が使いたかったトーンも廃番になってしまったりして。それで、どうにか自分で作れないかと思って発明しました。 

本来のものはもっと発色がいいんですけど、私のは自宅でプリントしている分、やっぱりちょっと色が沈んじゃうんです。それもまた自分のタッチとそんなに違和感なく合っているかなと。やり直しや調整が気軽にできるのも自作のいいところですね。

  

深川マンガの世界:① 紙に包まれた本 

―漫画といえば、深川さんも描かれているんですよね?

実は、それも持ってきました(笑)。この封(包み)もデザイナーさんと考えたんです。

―ありがとうございます!紙も包み方もかわいい。風呂敷や折り紙をイメージさせるような「和」の包みですね。開くと青くて。あれ?これって(エソラニの)『呼び水バーム』のパッケージとシンクロしているかも……?

そうなんですよ。そう思って今回、持ってきました。もう7年くらい前のものなんですけど。

―すごい……これは運命ですね!(出会う前から共鳴していた!?)

そうだったら、うれしいですね(笑)。

漫画本

 

深川マンガの世界:② 原点

―この漫画は「黒髪の女の子」が生まれる以前のものですか?

そうなりますね。『うきしま』という短編集で、テーマは「青」。青色にまつわる話が6つ入っています。

―現在の深川さんのイラストにもウィットに富んだ視点やシュールな面白さが潜んでいて、物語を感じます。漫画は今の作風につながる原点的な部分でもあるのかも。絵と言葉を使ってコマでストーリーを紡ぐ作品ももっと見てみたくなりました!

そうですね。漫画のようなストーリー性のある作品は、ぜひまた作りたいなと思っています。

 

深川マンガの世界:③『静子』

この漫画本の中に『静子』(しずこ)という作品が入っています。主人公の静子には魚の遺伝子があって、最終的に海に戻っていくみたいな話で。静子という名前は、『静』の漢字が『青』が『争』うと書くので、『空の青』と『海の青』がこう、どっちが有利なのかと争っているような……それが『静』という文字の由来かなと思ってつけました。 

深川優漫画
深川優漫画

短編漫画集『うきしま』に収録されている『静子』/コンタクトがぽろっと落ちて「目からウロコ」の静子/エラの名残という説もある耳瘻から自分のルーツを知ることになった静子が海へと帰っていく物語。シュールで……深い!

 

(エソラニのプロモーションイラストを担当するにあたって)パッケージの文章を読んだときに『空と海』とあったので、この『静子』のことを思い出して。頭の片隅にずっと『静子』を置きながらイラストを描いていたんです。 

深川優イラスト

深川さんに描いていただいた、エソラニのプロモーションイラスト(一部抜粋)

 

影響を受けたもの

―深川さんが描かれる女の子の絶妙なオシャレっぽさ、服の丈感とか……。いったいどこでインプットされているのか気になります。影響を受けた作品などはありますか? 

黒髪の女の子を描きはじめたときは、ちょうどトレンディドラマにハマっていて。『東京ラブストーリー』(1991年)とか『ラブジェネレーション』(1997年)とか。服装が今の感じとマッチしているところもあって。

―おお、そこですか。深川さん(1987年生まれ)はリアルタイム世代ではないけれど、時代感が琴線に触れた……? 

そうですね。大学生くらいからそのあたりの時代が好きになって、過去にさかのぼって触れている感じです。

―トレンドがめぐり、80~90年代のファッションやカルチャーが若い世代にも愛されていますが、深川さんの描く女の子にはその頃の雰囲気もあって、どこか懐かしいのと同時にすごく新鮮で今っぽい。まったく古くないんですよね。今の女の子たちの等身大が生っぽく表現されている。まさにエモさの極みです。この感度は天性のセンス、天からのギフトなのかも……。

でも、はじめの頃はもう、好きなイラストレーターさんや漫画家さんのタッチとか色づかいなんかをとにかく真似て真似て。(試行錯誤の末に)今のスタイルが出来上がっています。 

―ちなみに、好きな作家さんってどんな方なんですか?

いろいろなんですけど、あだち充さんが大好きです。あと、カラートーンを使いはじめるきっかけになったのは安西水丸さんとか……。

昔の漫画家さんも多くの方がトーンを使っていらっしゃったので、そういうのがアナログ作品として本当にいいなぁと思って。

ーこういった好きなものたちがつながって、深川さん独自の作品世界がかたちづくられているんですね。

 

深川さんのお話はまだまだ続きます。インタビュー後半記事はこちら

 

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→深川優さんのインスタグラム(yu_fukagawa)

   https://www.instagram.com/yu_fukagawa/