インタビュー #04 イラストレーター 深川 優さん×エソラニ スペシャル対談(後半)
日常の違和感を感じて切り取る。ポップとシュールが交差する世界。
前回に続き、イラストレーター深川優さんとエソラニのスペシャル対談をお届けします。深川作品の青色や最近の個展のお話、ご出身の滋賀のことまで……今回も気になる内容がいっぱいです(前半/後半に記事が分かれています。前半の記事はこちら)
深川優:イラストレーター。滋賀育ち神奈川在住。滋賀県立膳所高等学校、武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。人物イラストを中心に広告·書籍·雑誌など様々な媒体で活動中。これまでの個展は2016年『待ちあわせ』、2018年『あいちゃん』、2020年『東京』(@東京・ギャラリールモンド)、2022年『いけず石』(@東京・ギャラリールモンド/京都・haku kyoto)。
深川作品と青
―深川さんの作品には「青」が多く使われていますよね。何かこだわりはありますか?
そうですね、一回こう、青色を使ったときに、あ、なんか「フカガワブルー」にしようかな、みたいな(笑)。
ちょっとくすんだ青色が自分の武器になればいいなと思って、わりと意識的に青ばっかり使っていたことはありました。
―深川さんの柔らかな青色には、日本古来の藍色とのつながり、日本っぽさを感じます。それでいて現代的で都会的な印象もありますね。
なんですかね、シンプルな色数で表現したいというのもあって。都会的に見えるといわれるのも、青やグレーが合っていたのかなと。ちょっと奥行きがあるというか、何を考えているのかわからないような女の子のアンニュイな表情にも、青色は合っているのかもしれないです。
―ブルーは心境を表すのにも使われる色ですね。描かれている女の子たちはそれぞれ何かを抱えているようにも見えます。
日本的で都会的でアンニュイ。まるで計算されているかのように青色が深川ワールドのすべてをつなげている気がしてきました。
話題の個展『いけず石』
―現在は主に展示会とSNSで発信している深川さんですが、2022年11月に東京、12月に京都で開催された個展『いけず石』についてお伺いします。そもそも『いけず石』とは何でしょう。京言葉の「いけず」(意地悪)ですよね……?
細い路地の角や玄関の前などに置かれ、建物が車にこすられないように阻むのが『いけず石』です。私自身『いけず石』という名前は調べてから知ったのですが、京都にたくさんある、あの石の存在には気づいていて。
実は今回の個展には『侵略と抵抗』というテーマがあったんですよね。2022年にウクライナ侵攻があって、その出来事も取り入れたくて。「侵略」に「抵抗」している象徴として『いけず石』をモチーフにしました。
『いけず石』は実際に京都の至る所にあるんですけど、触れてはいけないオーラみたいな、勝手に触っちゃダメなのかな?みたいな。そんな石の上に、ふてぶてしく座っている女の子、という。
―女の子が領域を侵略している?
それもあるし、逆に一緒に守っているのかもしれない。どっちにも取れますね。ふてぶてしさで女性の強さを表せるかなと。
―空間の切り取り方が絶妙ですね。主役の石はリアルに描かれていて、まわりが違うタッチなのも素敵です。
背景は主に面で表して、石と髪の毛のディテールを細かくすることで、作品としてのバランスをとっています。
『いけず石』。京言葉「いけず」(意地悪)のほか「ここから先には行けず」など名前の由来は諸説ある。
日常に潜む違和感に敏感でいたい
たとえば『心臓の音聞き』という作品では「侵略と抵抗」の「侵略」をメインに考えています。不意に自分のテリトリーに入ってこられるという「侵略」なんです。
こちらも個展『いけず石』より。心臓の音を聞いている女の子と聞かれている女の子。
―見ていると文字通りドキドキします。深川さんならではの世界ですね。こういった独特のイメージはどのように生まれて、作品になっていくのでしょうか。
私は言葉から先行するタイプなんです。今回の場合だと、はじめにぼんやりと「侵略と抵抗」というのを思い浮かべていて、日常の中で侵略されている様子って何かな?……あ、『心臓の音聞き』やな、とか(笑)。
フラフープに入ってきたりとか。あるあるでいうと、膝カックンされるとか。そこからイラストに起こしやすいものを選んで描いていくっていう。『心臓の音聞き』は、なんていうか……あるあるすぎないので気に入っています。
―心臓の音を聞かれている女の子と聞いている女の子、それぞれの描き分けがぴったりきます。
顔自体はみんな一緒なんですけど、髪型が違うだけで(笑)。
―不思議ですね。深川さんの描く女の子たちはクセになるループ性のようなものがありつつ、個々のキャラクター性も伝わってきます。普段から人間観察みたいなものをしているのでしょうか?
いつでも一貫して、日常のちょっとした違和感に敏感でいたいな、とは思っています。メモするようにしたり。
ちなみに今、描きたいなと思っているのはこう、ルーズソックスをめっちゃ引っぱりあげて、タイトに履いてる感じ(笑)
―いいですね。機能を失ってしまった無意味さのなかにある何か……、みたいな(笑)。あふれ出す、シュールな視点にゾクゾクします。完成したらぜひ拝見したいです。
滋賀のいいところ
―京都ゆかりの『いけず石』を個展タイトルにされたわけですが、滋賀ご出身の深川さんにとって、やはり京都は身近な場所ですか?
はい、滋賀に住んでいた頃は京都まで電車で30分くらいだったので、よく遊びに行っていましたね。
―エソラニの商品は滋賀県で作っていて、『呼び水バーム』には鈴鹿山系からの地下水を使っています。商品を通じて滋賀の魅力も伝えていきたいと考えているのですが、深川さんが思う滋賀の素敵なところを教えていただけますか?
住んでいたときはまったく気づいていなかったんですけど、東京に来てみて、滋賀の空の広さ、空気の透き通っている感じ……何もないと思っていたけど、自然の豊かさは大きな魅力だと思いましたね。
学校の最寄り駅までけっこう遠くて、毎朝クルマで送ってもらっていて。まわりは田んぼだらけの道中、遠くに三上山(みかみやま)が見えていました。近江富士と呼ばれるくらい、とても美しい山。標高はめっちゃ低いんですけど(432m)、形がすごくきれいなんです。
(実際は富士山も海もないけれど)滋賀では三上山は富士山で、琵琶湖は海で。滋賀の人って、身近なものを大きなものに見立てて敬って、日々愛しているような気がします。
滋賀の人々のシンボル三上山。なだらかな稜線を描くその美しい姿から、近江富士と呼ばれている。(画像引用:びわこビジターズビューロー)
―想像力を羽ばたかせ、身近なものを何かに見立てて、日常を深く愛でる。だからこそずっと守られていく自然や文化がある。空に浮かんだ雲を空想で何かに見立てるようなエソラニの世界観やにっぽんサステナブルなコンセプトと共鳴しているようでうれしいですね。
深川さんに聞く、エソラニの魅力
―深川さんにエソラニを使う女の子のイラストをお願いしたとき、商品を見ていただきました。感じたことや印象、イラストを描くときに意識したことなどがありましたらぜひ教えてください。
『思いでオイル』は、スカートをかたどっているのが魅力的だなと思いました。たとえば木とか顔とか動物のシルエットだったらイメージがそっちに偏ってしまうと思うんですが、このオイルはパッケージの箱には人物の線が描かれているけれど、本体のボトルにはスカートの形だけで、一見、何かわからない。使う人が自由に想像できるのがいいなぁって。
イラストを描くにあたっては、商品の透き通っている感じをそのまま出せればいいなと思って色合いなどを考えました。
『呼び水バーム』を見たときに自分の漫画本『うきしま』を思い出して、『静子』を頭に置きながらイラストを描いたんです(前半回参照)。パッケージの文章を読むと「自然」と深く関わろうとしている印象を受けたので「自分はいつも日常のことには敏感でいたいと思っているけど、ああ、こういう自然に対する視点も大事だな」と感じました。
石をモチーフに描くことがけっこう多いんですが、たとえば角ばっていたものが経年変化で丸くなっていく様子だとか
外側に出る模様だとか、身近な自然物でありながら信仰の対象にもなったり、石を積む動作がこの世とあの世をつなぐものだったり……。自然物から地球の大きさをもっと感じて作品に取り入れられたらな、と思うようになりました。
―私たちは自然物とともに「自然」や「つづき」の中にいるんですよね。見る人の想像の余地を残すようなかたちでそのことを表現できたら、とエソラニも考えています。
―最後に深川さんのこれからについてお聞かせいただけますか?
日常の違和感に対して変わらず敏感でいたいですし、その中で自分を発信するものとして漫画作品などもつくっていきたいです。イラストの仕事をしつつ、もう少しアーティストの方に足を突っ込んでもいいのかなと思っています。
ますます楽しみです。たくさんの貴重なお話をありがとうございました!
穏やかな口調で、いろいろな裏話まで丁寧に語ってくださった深川さん。インタビューの後は、大ファンというスワローズの話で一同盛り上がりました。深川さんにしか描けない、見る人の心をキュンと震わす作品づくりは、私たちが目指す世界ともシンクロするところがいっぱいで、エソラニのこれからにとっても参考になるお話ばかりでした。今後のエソラニの展開では、もっとたくさんの深川さんとのコラボが実現するかも……みなさん期待していてくださいね。
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